「太陽と歩く」に参加して

 

3月21日 春分の日、何度も斜里に足を運び滞在制作をしているアーティスト、エレナ・トゥタッチコワさん主催のウォーキングツアー、「太陽と歩く」に参加した。

 ツアーの内容は、斜里町海別岳の麓に住む少年、太陽くんと一緒に峰浜地区を歩き、その中で見たこと、感じたこと、また、これまでの峰浜に関する思い出を地図に起こすというもの。エレナさんが制作のテーマともしている「土地が個人の中に形成する記憶」に着目したプロジェクトとなっている。

 この日集まったのはパン屋さん、デザイナーさん、農家さん、山岳ガイドの方、など、職種はばらばらだけれど、メーメーベーカリーコミュニティーを通じてお会いしたことのある方々ばかり。挨拶もそこそこに、ウナベツ温泉駐車場から歩き出した。

 太陽くんが先導し、その後を10名の大人がぞろぞろと雪の溶けかかった早春の農道を歩いて行く。途中、秋には大量の鮭がのぼってくるという小さな川や廃校となった小学校、スピーカーが付いた丸型の宇宙船のような鉄塔を通り過ぎ、海へ出た。ちなみに私はこの間、太陽くんのお母さんと手を繋ぎながら、1ヶ月半にわたったインド旅行のお話を聴いた。インドでは友人同士でも手を繋ぐことは当たり前だそうだ。そんな平和な国がこの世の中に実在しているとは!という驚きと幸せを感じながら歩いた。

 峰浜の海は砂利の海岸となっいて、コンクリートの防波堤から階段で海まで降りて行くことができる。この日の海は重たく深い藍色。空は寒々しく鉛色の雲が覆いかぶさっていた。そんな天気に負けじと、いくつかの石が固まってできあがった不思議な石やオブジェのような小指ほどの小枝、カニの抜け殻、削られて角が取れた貝殻など、時に高波に足を濡らしながらも私たちはそれぞれの感性に従い魅力的な形の漂流物を発見した。

 そうしてしばらく海で過ごした後、海岸に住んでいる知り合いの木工作家さんのお家を訪ねてみんなで立ち話をしたり、雪解け時期の硬い雪玉で雪合戦をしながらぐるっと回る形でウナベツ温泉に戻った。

 持ち寄りのおはぎ、おこわ、チャイをいただきつつ休憩したら、トレーシングペーパーと色ペンを使って自分だけの地図を書き起こす。紙の上には、ウォーキングでの思い出や印象に残った風景、これまで峰浜地区で知り得た秘密の場所が絵や文字、線で立ち上がる。地図が完成すると、エレナさんが全員の地図を重ねて窓ガラスに透かして見せた。重ねてみると様々な線が一つの画面に凝縮され、記憶の層となって峰浜という土地を表していた。

 地図をテーブルの上に並べて鑑賞会も行った。ドローイングによって可視化することにより、どの場面が深く心に残ったか、各々の切り取り方の違いが面白く、「拾った貝殻の輪郭を直接写し取るとは斬新な!」とか「確かに、全員の上着の色はカラフルだった」など、自分一人では気づかなかった今日という一日の発見があった。

 ウォーキングでは、普段は車で通り過ぎてしまう道を歩き、様々な風景や現象と出会った。特に海岸なんかは、防波堤を乗り越えてまで海に近づこうとしないし、石拾いもしたことがなかったので、とても印象に残った。また、一人一人の表現を見聞きすると、自分の心が薄皮一枚剥けて清々しい気持ちになる。それは写真の鑑賞やドローイング、課題制作など、複数人が同じ表現方法、同じテーマで作品をつくる機会に立ち会う度に感じるが、何度でもこの感覚を味わえることが嬉しいし尊いなぁと思う。

 みずみずしい体験と心踊る冒険に溢れた実りある一日だった。

 

f:id:fuku93:20190328114345j:plain 

f:id:fuku93:20190328114545j:plain 

f:id:fuku93:20190328114728j:plain

f:id:fuku93:20190328114839j:plain

f:id:fuku93:20190328114955j:plain 

f:id:fuku93:20190328170249j:plain

こちらが私が書いた地図。実際に歩いた道順になるように、印象に残った場面の簡単なイラストを描いた。

 

ちなみに、今回お世話になったウナベツ温泉は来年度からの存続が危ぶまれているようです。

このように気張らずワークをすることができて居心地がよく、温泉も泉質・雰囲気ともに素晴らしいウナベツ温泉、ぜひ残していただきたいです。斜里町さんお願い!

 

f:id:fuku93:20190328115059j:plain